密教法具を目にしたことのある人は、その武器のような独特な形や洗練された美しさに目を奪われたことでしょう。
密教の行法(ぎょうぼう)ではこうした他宗派では見られない法具が欠かせませんが、いったいどのようなものなのか、詳しく解説します。
密教法具とは
密教法具は、密教の重要な役割である加持祈祷(かじきとう)の各種行法で使われる仏具の総称です。
同じ仏教の他宗派では見られない独特な法具であり、一見するとまるで武器のような形に見えるものも少なくありません。
その理由は、密教法具には、加持祈祷を妨害しようとする外敵を退ける役割もあるためです。
また、自分の内にある煩悩(ぼんのう)も加持祈祷を妨害する敵であり、それを打ち破るためのものでもあります。
そのため密教法具は、実際に古代インドで使われていた武器をもとに形作られています。
主な密教法具
それでは主な密教法具を紹介しましょう。
金剛杵(こんごうしょ)
杵という字が使われている通り、両端が突き道具の形になっています。
突起が一つのものを「独鈷杵(とっこしょ)」、三股になっているものを「三鈷杵(さんこしょ)」、五股になっているものを「五鈷杵(ごこしょ)」と言います。
金剛鈴(こんごうれい)
金剛杵の一方が鈴になっているものです。
前述にならい、杵になっているほうの形によって、「独鈷鈴(とっこれい)」、「三鈷鈴(さんこれい)」、「五鈷鈴(ごこれい)」と言います。
また、ほかにも珠の形になっている「宝珠鈴(ほうしゅれい)、塔の形になっている「塔鈴(とうれい)」があります。
羯磨(かつま)
三鈷杵を十字に組み合わせた形をしており(三鈷が4つ)、修行の成就を祈願して修法壇の四隅に置きます。
輪宝(りんぽう)
車輪をかたどったもので、回転することで煩悩を打ち砕き、迷える民衆を救うことを意味します。
説教することを「転法輪(てんぽうりん)」とも言います。
仏様を喜ばせることが大切
密教では、歌謡や舞踊で仏様を喜ばせることが重要とされているため、金剛鈴のように鈴が一体化している法具があります。
金剛鈴を鳴らすことは仏様と一体化するためであり、これらの密教法具の使い方は秘儀とされています。
秘儀は師僧から代々伝授される習わしです。
まとめ
密教法具は他宗派にはない独特の法具であり、加持祈祷を妨害する敵や己の煩悩と戦うために武器をかたどったものもあります。
また、仏様を喜ばせることも密教では重要なため、鈴の付いた法具があることも特徴です。
いずれにしても密教法具を用いた行法は秘儀であり、一般に伝わるものではありません。
空海が唐から持ち帰り、生涯大切にしていた五鈷杵は、祈祷の際必ず手にしていたと言われています。